咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

春のカミサマ.6

 ついに、四十を越えたミノ作り。

 いよいよ枯れ葉が固くなり、

 ケムシの毛針も折れるほど。

 なかなか、はかがゆきません。

 

 それゆえクモはひたすらに、

 休まずミノを作ります。

 眠りもせずに作ります

 

「クモさん、お願い、休んでください」

 

 みんなの希望を託された、

 ケムシは、必死にいさめます。

 けれどもクモは止まりません。

 

「みんなに春を見せること。

 それは、私の夢になったのだ」

 

 そして、笑っていいました。

 

「おそらく、これは運命で、

 私はこの為に、生まれてきたのだ」

 

 四十六着目ができたその夜が、

 一番寒い夜でした。

 

 その翌朝が明けるころ、

 最後のミノが縫い上がります。

 ケムシはようやく終わりかと、

 戸を開けて息をのみます。