咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

春のカミサマ.7

 そこは、一面の銀世界。

 

 村には昨夜の初雪が、

 薄く積っておりました。

 

 戸を閉めたケムシは、

 村長の家へと急ぎます。

 それからバッタの家へ。

 そして、みんなの家にも。

 

 ケムシの歩みは全身で、

 のろのろのろのろ進みます。

 

 ですから、ケムシが帰ってきた頃は、

 夜が始まるたそがれ時。

 

「クモさん、間に合わなかった」

 

 戸を開けたケムシが見たものは、

 最後のミノを抱いたまま、

 動かなくなったクモでした。

 

 ケムシはひとり泣きました。

 たくさんたくさん泣きました。

 

 空から雪が降ってきて、

 何もかもを埋めました。