このクニではすべてのイノチは、「この世」での時間を使い果たすと、「この世」での姿を捨てて「あの世」に行きます。
他のクニ、「あの世」は遥か遠く離れた処だそうですが、ここでは、故郷の山の高みなどにあるようです。
そして、このクニのイノチは死んでも近場の「あの世」から永く子孫を見守りその幸福を祈ります。
とはいえ、イノチがいるこの場所は、どうやら「あの世」ではないようです。
「はは。お前は『この世』と『あの世』のはざまにある、『はざまの世』にいるのさ」
青い狐面の右手にいる赤い狐面の囁くような掠れ声が、イノチの心を読んだように笑います。
「ここはすべてのイノチが『この世』から『あの世』に渡る時に通る処よ」
赤い狐面の右手にいる白い狐面が深く低い声で教えてくれます。
「そして、こちらにおわすのが、『はざまのカミサマ』です。この世界の主様です」
白い狐面の右手にいる黒い狐面の影法師が静かに続けます。
その柔らかい声と紅い唇、そしてその身体つきから、黒狐は女であろうとイノチは思います。
イノチの頭上、つまり、黒狐の女が示した場所には、光が渦巻いて見えます。
その渦の中心は光の珠のように見えます。
「あたたかい」
イノチは、光る珠と自分には、何かの繋がりがあることを感じました。
「はは。お前と同じく我らも、そしてこのクニのすべてのイノチも、主様と繋がっている。なにしろ主様は、この国の森羅万象の精霊の王なのだからな」
青狐が甲高い声で語ります。