咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

胡蝶 3

 他のクニの中には「神様」がただ一人しかいない国もあるようですが、このクニには「カミサマ」がたくさんいました。

 あまつさえ、人として生まれても大成功した者や、時には悪行を為した者でさえも、その甚だしき者は神様として崇められ畏怖されました。

 しかし、それらの人の姿形をしたカミサマ達とは別に、この国の国土を構成する森羅万象、つまり山河、森や沼や滝、田畑、巨石などの地表の存在と、その地で起きる風雪雷雨などの姿形のない自然現象、そして国土に生息するありとあらゆる生命には、精霊が宿るとされました。

その精霊達はみな「カミサマ」と呼ばれていました。

そして、そのカミサマ達の王こそが「はざまのカミサマ」ということです。

 

「さて、イノチよ。『この世』に何か思い残したことはあるか」

 青狐にそう問われたイノチは、「この世」の自分が、死にたがっていたことを、死ぬことを願ったことを思い出します。

 そして、イノチはその名を知りませんでしたが、願いを叶えて欲しいと祈る時に、「はざまのカミサマ」に祈っていたのだということも思い出します。

 しかし、イノチは、それ以上に、何か大切なことを忘れているような気がしました。

 とはいえ、死ぬことよりも大切なこととは何だったのでしょうか。