「語りきったか」
青狐が吐息交じりに言います。
「紅梅は、自分が美しいということを知らなかった」
黒狐の唇が赤く咲きます。
「紅梅はあらゆる花に先駆けて咲く花。紅梅への祝福は、あらゆる花への祝福となる」
赤狐が顔を上げます。
「美しいという言葉は、誇りを、勇気をも与える祝福の言葉。紅梅に続く花々は、予祝を与えられたことになる」
白狐が続きます。
このクニでは、予め祝うことで幸いを呼び寄せることができる、と信じられています。
「花々は、予祝を受けて、ますます鮮やかに咲き誇ることだろう。そして『この世』はますます華やかになる」
「この物語は、きっと語り継がれる」
赤狐が口角を上げながら言います。
白狐が呟きます。
「主様は、鎮魂の歌ではなく、生命の賛歌を歌い継がせる為に、冬蛾と紅梅に邂逅の機会を与えたのだろうか」
その呟きを聞いて、黒狐の紅い唇が咲きました。
「はざまのカミサマ」とはそういうものなのです。
『しかし、冬蛾の想いは』
黒狐は言葉をのみこみます。
『冬蛾の紅梅への想いを、何と呼ぶのだろうか』
こうしてひとつの物語が終わりました。
「はざまの世」は静まり返ります。
次の物語が始まるその時まで。