ところで、青狐がイノチに質問したのには理由がありました。
「この世」に強い願いや思いを残したイノチは「この世」と「あの世」の間にある、ここ「はざまの世」の三間四方の正方形の舞台の上で、残した願いや思いを物語り、「はざまのカミサマ」に聞いていただくことができるのです。
「紅梅に、会いたい」
イノチがまた言葉を発します。そしてイノチは混乱します。
自分でも思ってもいない言葉です。
ちなみにこのクニでは言葉にさえ「言霊」という精霊が宿ります。
しかし、イノチの言葉を聞いた青狐は、至極納得します。
「なるほど、胡蝶は春夏秋の花々とは出会えても、冬を割って咲く梅の花とだけは出会うことはない。未だ見ぬ梅の花に会ってみたい。ということか」
青狐の問いかけに、イノチは沈黙で対応しながら記憶を辿ります。
紅梅とは誰なのか。
イノチは自分の記憶を、必死に呼び起こします。
「しかし、紅梅に会っても、その姿では相手にはお前が何者であるかがわかるまい」
赤狐が立ち上がります。
「まずは、お前に姿を与えよう」
赤狐の囁きに、イノチは、自分の姿を見回します。
ほの暗い「はざまの世」では、イノチはぼんやりと透き通った陽炎のようにしか見えません。
どうやら、赤狐はイノチに姿を与えることができるだけの妖力を持つ「カミサマ」のようです。