「さあて、これで紅梅と出会うことができたな」
赤狐は紋白蝶を見失った手前、早口で言いました。
「はは。いやいや、そうはいかぬ」
白狐が低く笑います。
「あれでは、出会ったことにはならぬ。互いに見合ってからこその出会い。紅梅は雪の中の胡蝶を見分けてはいない」
「まてまて、そもそもが、胡蝶が見たことのない紅梅を、一目見てみたい、との願いではなかったか」
青狐が念を押します。
「なるほど、一目見たい、との願いと、巡り会いたい、との願いは、別の願いだ」
赤狐も参加してきます。
その時、イノチが声を上げます。
「我はあの紅梅に、言葉をかけたいのです」
イノチは、もう少しで何かを思い出しそうになっていました。
白黒の世界でただ一輪咲くあの紅の花が、イノチが「この世」を去った時に失った記憶を呼び戻そうとしています。
「言葉をかけたいとは、お前の望みは紅梅との縁を結びたいということか?」
赤狐が少し声を固くします。イノチの言葉に違和感を覚えたからです。
「いいえ、我はあの紅梅のことを知っているのです」
そういうイノチの言葉に青狐も不審を覚えます。
何故なら、胡蝶は紅梅と「この世」では、出会うはずがないからです。
「知っているはずなのです」
イノチは記憶を辿りつつ繰り返します。
イノチから言葉が勝手に飛び出してきます。
「しかし、胡蝶と紅梅は、生命を冬で別つはず」
青狐の声も尖ります。