咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

春のカミサマ.12

 すると、晴れた星月夜の空から、

 白い雪が舞い降りてきました。

 

「ああ。クモさんは、ここにいる」 

 

 風花(かざばな)が舞う星月夜の下、

 静まり返った夜の中、

 虫たちの『祝いの歌』は、

 誇らしげに響き渡りました。

 

 ミノを着たみんなは一緒に、

 翌日から眠りにつきます。

 春が来るまで眠ります。 

 

 ところが、「春の始まり」を、

 村の誰もが知りません。

「秋の終わり」がわかる村長にも、

 こればかりはわかりません。

 

「約束ですよ。ケムシさん。

 春になったら知らせてください。

 みんなに春を見せてください」

 

 村長がケムシに約束させます。

 これでケムシは春が来るまで、

 生きぬかなければなりません。

 

 ケムシは、村にそびえ立つ、

 桜の古木を見上げます。

 あの木に咲く花こそが、

 春が来たとの証(あかし)です。

 

 

 月は満ち欠けを繰り返し、

 風向きは北からやがて南へと。