ミノムシは、また、目が覚めました。
「広場のみんなの亡き骸。現れたクモさん。どちらが夢だったのか。どちらも夢だったのか」
ふと、ミノムシの背中が冷たくなります。
「いやいやいやいや、もしかしたら、おれのほうが死んでしまったのではないか」
すっかり目が覚めたミノムシは、自分の体の変化に気づきます。
冬眠前は伸び縮みしていたミノムシの体が固くなっています。
ミノムシは、顔を動かしてみます。
動かない首を回すと、木の下の広場が見えます。
そこには、バッタたちが、音楽祭の夜の時のそのままの姿でいました。
いや、そのままの姿ではありません。みんなは、ミノを着ていたのでした。
「あれえ、みんなは、死んだはずでは」
ミノムシは、クモの言葉を思い出します。
ミノが間に合わずみんなを死なせてしまったこと。
春をみることができると、みんなをぬか喜びさせてしまったこと。
ミノを作ること、みんなに夢をみせることを、楽しんでしまったこと。
クモはそれらの全てを悔やんでいました。
「あれが、夢だったのか」
ミノムシは目を凝らしてみんなを見ます。
その時、ミノムシの体が風にゆらゆらゆらゆら。
ミノムシの揺れが収まった時には、みんなの姿は見えなくなっていました。
「あれ。これが、夢か」
どちらが夢でどちらが現実なのか。
あるいは、どちらも夢なのか。
それとも、どちらも現実なのか。
ミノムシは混乱しました。
しかし、そのうちにミノムシは眠たくなってきます。
眠くて眠くてしかたなくなりました。
ミノムシの体に変化が訪れていました。
ミノムシは、ミノムシから別の形になり始めていたのでした。
ミノムシは眠ります。
もう、夢をみませんでした。