咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

カミサマになったクモ・20

 ミノムシは、また、目が覚めました。

「広場のみんなの亡き骸。現れたクモさん。どちらが夢だったのか。どちらも夢だったのか」

 ふと、ミノムシの背中が冷たくなります。

「いやいやいやいや、もしかしたら、おれのほうが死んでしまったのではないか」

 すっかり目が覚めたミノムシは、自分の体の変化に気づきます。

 冬眠前は伸び縮みしていたミノムシの体が固くなっています。

 ミノムシは、顔を動かしてみます。

 動かない首を回すと、木の下の広場が見えます。

 そこには、バッタたちが、音楽祭の夜の時のそのままの姿でいました。

 いや、そのままの姿ではありません。みんなは、ミノを着ていたのでした。

「あれえ、みんなは、死んだはずでは」

 ミノムシは、クモの言葉を思い出します。

 ミノが間に合わずみんなを死なせてしまったこと。

 春をみることができると、みんなをぬか喜びさせてしまったこと。

 ミノを作ること、みんなに夢をみせることを、楽しんでしまったこと。

 クモはそれらの全てを悔やんでいました。

「あれが、夢だったのか」

 ミノムシは目を凝らしてみんなを見ます。

 その時、ミノムシの体が風にゆらゆらゆらゆら。

 ミノムシの揺れが収まった時には、みんなの姿は見えなくなっていました。

「あれ。これが、夢か」

 どちらが夢でどちらが現実なのか。

 あるいは、どちらも夢なのか。

 それとも、どちらも現実なのか。

 ミノムシは混乱しました。

 しかし、そのうちにミノムシは眠たくなってきます。

 眠くて眠くてしかたなくなりました。

 ミノムシの体に変化が訪れていました。

 ミノムシは、ミノムシから別の形になり始めていたのでした。

 ミノムシは眠ります。

 もう、夢をみませんでした。