咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

カミサマになったクモ・21

 その冬はとても長く厳しいものでした。

  それでも春はやって来ました。

  まずは、甘い香り。

 それは、雪の中に咲く紅梅。

 ケムシは、冬を割って咲く赤い花を見て、春が来たことを知ります。

 ケムシは、ひとりで春を見ました。

 ほんとうならば、一緒にいるはずのみんなはいません。

 ケムシは、ひとりぼっちで春を見たのでした。

ケムシが見つけた春は、夢にみていたような春ではありませんでした。

 暖かくて、いい匂いがして、とりどりの色があって、光に溢れる春ではなかったのです。