咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

はざまのカミサマ.4

「なにごとの おわしますかは 知らねども かたじけなさに 涙こぼるる」 いつか、神霊の気配に気づいた者が歌に読んだように、 神様も仏様も「この世」とつながっています。 ですから、「はざまのカミサマ」も、「この世」とつながっています。 なにしろ、は…

はざまのカミサマ.5

「それでも、はざまのカミサマは、おわします」 白狐には、黒狐の女の唇が咲いたわけがわかります。 たとえ、胡蝶と紅梅の邂逅が、刹那であろうとも。 たとえ、はざまのカミサマを信じる人びとが、根絶やしにされようとも。 白狐は「雪」と呼ばれていたこと…

はざまのカミサマ.6

仏は常にはいませども 現ならぬぞ あはれなる 人の音せぬ暁に ほのかに 夢にみえたまふ はざまのカミサマは、たそがれ時や彼は誰時には ヒトにも、その姿が見えることがあります。 たいていは、カミサマの従者たちの姿を見て、 はざまのカミサマと見間違える…

はざまのカミサマ.7

「森羅万象」という言葉があります。 「宇宙に存在する一切のもの」を表す言葉です。 はざまのカミサマの世界を表すような言葉です。 「宇宙」という言葉があります。 「宇」は、「天地・四方・上下」、 つまり「空間」を表す文字です。 そして「宙」は、「…

はざまのカミサマ 8

「いつから、私はこの姿になった?」 黒狐は自分の両肩を抱きながら思います。 「いつから、彼らはここにいる?」 黒狐は、青、赤、白狐を見回します。 彼らは、手を伸ばせば触れることができそうなほどの近さにいるように見えます。 けれども、手を伸ばして…

はざまのカミサマ 9

はざまのカミサマを中心に、東西南北をお守りする狐面。 東の狐面の色は青。顕すのは月。 南の狐面の色は赤。顕すのは花。 西の狐面の色は白。顕すのは雪。 そして、北には黒。顕すのは風。 「雪」「月」「花」というこの国の美しきものたち。 そして、その…

はざまのカミサマ 10

ニワトリが先かタマゴが先か。 という議論があります。 原因から何かの結果が生まれます。 その結果が何事かの原因となります。 大陸で生まれた「道教」の流れを組むという「陰陽道」の中に、四神という東西南北を守る神々がいます。 東に青龍、南に朱雀、西…

はざまのカミサマ 11

ニワトリが先か?タマゴが先か? 国津神の子孫らを、天津神の子孫が治める島国。 大陸からこの島国に渡ってきた渡来人たちは、神々の子孫に抑えつけられていました。 天津神や国津神の神々の子孫に対して、 例えば秦氏のように、秦の始皇帝の子孫であるとか…

はざまのカミサマ 12

はざまのカミサマの使いは人の世で何をするのでしょう? はざまのカミサマは、「もののけ」の王です。 「もののけ」とは「物の怪」とも記します。 「物」とは、あらゆる「物」をさします。 「国土草木悉皆」が「物」です。 この国土の全てが「物」なのです。…

はざまのカミサマ 13

はざまのカミサマとは、 この国の森羅万象が発する「精気」 つまり、この国の命有るもの、命無きもの、それらの全てのものが発する「精気」が集まったものなのでしょう。 その「精気」は、観る者が「理解できる形」をとります。 はざまのカミサマの使いは「…

はざまのカミサマ 14

天武天皇がこの国の名を「日本」と名付けました。 聖徳太子も「日出ずる国」と名乗ったように、 この国は、西からの視点を気にしながら生きています。 この国は、西から日本になりました。 その西日本が東日本を攻め込んでいきます。 その土地に暮らしていた…

はざまのカミサマ 15

はざまのカミサマの世の扉は、 どうやら新しい神様や新しい仏様が、 この国土にやって来る機会に開くもの そう思われていました。 初めて「仏教」というものがこの国土に伝来した時にも、 はざまのカミサマの世の扉が開いて、 秦河勝にその中を観せました。 …

はざまのカミサマ 16

「この世」と「あの世」のはざまにある「はざまの世」の扉は、実はいつでも開いています。 昔からのこの島国の民は、そのことを知っていました。 たとえば、小さな沼や森にも、「沼のヌシ」や「森のヌシ」がいました。 「ヌシ」とは「主」でもあります。 山…

はざまのカミサマ 17

仏教を知る前、この島国では あらゆる命は、死んだら「他界」に行くものだ。 と、考えられていました。 今日でも、死ぬことを「他界した」とあらわすことがあります。 死後に行く「他界」は、人々の住む地域のそばの高山や海である場合がほとんどです。 人は…

はざまのカミサマ 18

御霊神となった早良親王の名を挙げたならば、 その兄である桓武帝の名を挙げないわけにはいきません。 とはいえ、聖徳太子から桓武帝、早良親王に連なる血統は、天津神の最高神である天照大神の血統です。 天津神や国津神は、この島国に地生えの「もののけ」…

はざまのカミサマ 19

乱れた天下を静めるために、矛をとめる、つまり「武」を成す。 「天下静謐」のための「天下布武」 桓武帝が、坂上田村麻呂を用いての「天下布武」で、 日本はひとつになりました。 絶対強者である桓武帝の下で、「天下静謐」となります。 しかし、桓武帝によ…

はざまのカミサマ 20

平安を求めるために、四方を神々に護られた都を作る。 さらには、鬼門にあたる叡山の地に、鎮護国家の寺を新設する。 これまでの仏教の経文や呪文に加えて、密教の真言を唱える。 これだけでは、「天下静謐」は得られないことを、 桓武帝は知っていました。 …

はざまのカミサマ 21

日本人は、 ━世界の東の果てに連なる島々から成る「日本」というクニの住人を「日本人」と呼ぶとして、 日本人は、その歴史の上で、他の民族から征服された経験を持たない、稀有な民族といえます。 さらにいえば、大和朝廷という一つの王朝を、二千年近く戴…

はざまのカミサマ 22

歴史上には、その流れを変える「特異点」があり、その「特異点」はいわゆる「傑人」によってもたらされます。 「はざまのカミサマ」の使徒は、歴史の「特異点」に現れることは間違いなさそうです。 そして、その目的はどうやらこの国での「唯一絶対神」への…

さようならの魔法使い 1

あるところで女の子が生まれました。 女の子のお父様は王様で、お母さまはお妃様だったので女の子はお姫様でした。 女の子は色がぬけるように白く、きれいな瞳をした可愛い子でした。 王様もお妃様も長い間待っていた初めての子供だけに、大層喜びました、 …

さようならの魔法使い 2

女の子は、びっくりしました。 けれども、まだ目がはっきり覚めてないからか、あまり怖くありませんでした。それにその男の人のことをどこかで見たことがあるような気がしましたから。 「こんばんは」 「こんばんは」 女の子は、男の人に上手にごあいさつが…

さようならの魔法使い 3

次の朝、女の子が目をさますと、窓は全て閉じられていました。頑丈な鉄格子さえあります。 昨夜のことは、全部、夢だったのかなと思いました。 それで、女の子は魔法使いのことを王様にもお妃様にもないしょにすること にしました。 けれども、その夜も、魔…

星の魔法使い1

その街の外れにある星見やぐらには、星占いのおじいさんが住んでいました。 このお爺さんは、子どもと星がお話をする魔法を使うことができました。 おじいさんは魔法使いだったのです。 人は誰でも空に一つだけ「自分の星」を持っているのです。 おじいさん…

星の魔法使い2

星見やぐらの下に小さなテントがあります。 そのテントの中に下がっている鈴を、リンリンと鳴らすとやぐらの上からおじいさんが降りてきてくれます。 そして、子どもと一緒に星見やぐらを登っていきます。 その街に夕闇が訪れて、おじいさんを呼ぶ鈴の音が風…

星の魔法使い3

それでも、おじいさんの鈴は、時々、小さな手でりんりんと鳴らされました。 おじいさんはその子の手をひいて、星見やぐらを登って行きます。 星見やぐらの上に着いたら、子どもに目をつむらせます。 そうして口の中で呪文を唱えながら、その子の星を見つけま…

星の魔法使い4

子どもにも、確かにそう聞こえたように思えました。 目を開くと、空いっぱいの星です。 その星の中の、どれが自分の星なのかはわかりません。 けれども、「自分の星」が、この空に確かにある。 そのことを信じることができました。 「ありがとう。さようなら…

星の魔法使い5

夜がふけて子どもたちが眠ってしまう頃に、星占師のおじいさんは独りでタバコを一本だけ吸って、コキコキと首を回した後、星見やぐらから降りてきます。 ある夜、おじいさんがタバコに火をつけた時に、りんりんと鈴がなりました。 こんな夜更に子どもが来る…

星の魔法使い6

おじいさんが何度、呪文を唱えても星からの返事がありません。 おじいさんは不思議に思いました。 そんなことは、初めてだったからです。 不安そうな男の子と一緒に、おじいさんは厚い本を調べてみました。 いろいろと調べてみました。 そして、その男の子の…

星の魔法使い7

男の子が魔法使いの弟子になって3年経ちました。 男の子は立派な星占い師になっていました。 星占い師は、引退して別の街に引っ越したおじいさんの代わりに、あの星見やぐらに住んでいました。 けれども、その頃には、星とお話をしたいという子どもは、まっ…

星の魔法使い8

そんなある夜、久しぶりに星見やぐらの鈴がリンリン鳴りました。 魔法使いがワクワクしながら星見やぐらからテントに降りてみると、女の子がひとりで立っていました、 たいていの女の子は、お星さまとお話するのが少し怖いから、お母さんやお父さんに連れら…